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 ナヴァルが次の任務が決まるまでの繋ぎとして任されていた、ラファルのパイロット候補生達の教練に目処が付き始めた頃――。

「ニザムの隠蔽拠点が落ちた……?」

 本社の訓練所からグリフティフォン内に充てられている自室へと戻った黒髪黒目の青年――ナヴァル・トーラは、その突然の報告に困惑と動揺とが絡み合った声を上げた。

 つい先日までナヴァルの赴任地でもあったその場所は、ニザム領でのウェシナに対する妨害工作の中心地であり、TYPHON社が現時点で動かせる戦力の過半が終結していた場所でもあった。

 しかし――。

「帰還者は存在せず、配備されていた戦闘ゾイドも殲滅された模様。また、僅かながら生存した人員も全てウェシナに捉えられた可能性が高いとの事」

「……そうか」

 青いドレスを纏った背の高い女性――パンドラが続ける抑揚の無い報告は、ナヴァルにその現状を知らしめるのと同時に冷静な判断力を維持させるものだった。

  ――拙い、状況か……。

 ウェシナの尋問は苛烈を極めると噂されており――その真偽がどうであれ、まともな軍隊の尋問に晒されれば、TYPHON社の実働部隊員達の意思がどんなに屈強であろうと、そう遠くない未来に計画は露呈する。

「ナヴァル・トーラ。アイヴァン・グランフォードから『現状を確認したい、管理室でパンドラと折衝をする準備をしろ』との伝言を預かっています」

 ナヴァルがその衝撃的な報告を理解しようと考え込む中、パンドラはその隙間を縫うように次の情報を差し込んでくる。

「……判った。管理室に向かう――想定資料を準備しておけ」

 その情報の嵐に対し、少し時間が欲しいとナヴァルは思うが――事態が切迫しているのも事実であり、彼はパンドラが希望している言葉を口にする事で占有者としての義務を果たす。

 ――……冷淡なもんだな。

 ニザムの隠蔽拠点に居たであろうナヴァルの縁者――ラオ・アクアビッツは、彼にとって父にも等しい恩師であった。

 しかし、そのラオが恐らく亡くなったであろうと言うのに、パンドラとのやりとりで冷静さを取り戻している自分に気が付いたナヴァルはそんな自嘲を思う。

 ――いや……元から冷酷だったか。

 そして、その思考の最後を自虐で閉めながら、ナヴァルは席を立つ。

「――了解しました」

 そんなナヴァルに対し、パンドラは反応の遅れた返答で応え――。

「今は考え、行動する時であると思考するナヴァルの反応は、極めて良好であると思考します」

 パンドラはその返答の続きに、そんな言葉を付け加えてから資料の準備を開始する。

 それは、とても遠回しな物ではあったが――ナヴァルの事を思い遣っているとも感じられる言葉であった。

「――――」

 パンドラは必要な事以外では動かない存在だとナヴァルが思い込んでいた事もあり、彼はその言葉を“意外だな”と強く感じ――。

「そうだな……それが正しいといいな」

 同時にそれをとてもありがたいと思いながら、ナヴァルは小さな同意で応えた。





 ナヴァルが先の急報を受けてから十数分後――。

 アイヴァンがパンドラと会談をする為の場所と化している管理室に、ナヴァルを含めた3人は集まっていた。

「(仮称)グリフティフォン管理者、パンドラが対応します。――アイヴァン・グランフォード、本日はどのようなご用件でしょうか」

 そして、TYPHON社の実働部隊にとっての重要施設であったニザムの隠蔽拠点が壊滅した状況の中、パンドラは『そんな事案は関係ない』とでも言っているかの様に平坦な口調での対応を開始する。

「――――」

 その無関心とも感じられる対応に、TYPHON社の長であるアイヴァンは鬼の様に引き攣った形相でパンドラを見据え、今にも爆発しそうな不快感を発する。

「パンドラ、社長の質問に答えろ」

 誰でも簡単に予想出来るその先――パンドラの発言に反応したアイヴァンの言葉に、彼女がそれでも変わる事の無い平静な言葉を返し――結果として彼の怒りに更なる油を注ぎ、何の決定も見ないまま会談が終了する。

そんな会話の機先を封じる為、ナヴァルは状況が動く前に対応をパンドラへ命じ、話の方向性を作り出す。

「了解しました。レベルBまでの情報開示要求を許可します」

「――技術屋からの報告も受けてはいるが、正確な状況を把握したい。グリフティフォンの稼働状態はどうなっている?」

 発言を遮られたアイヴァンの眉が苛立たしげに動いたが、彼も今が建設的な話をしなければならない状況である事を理解しており――僅かな沈黙の後、彼はナヴァルが用意した会話の流れに乗る。

「現在、本機の修復率は30%となっております。――ですが、TYPHON社による改造を考慮した場合、本機の稼働率は85%にまで上昇します」

 そして、アイヴァンから発せられた質問に対し、パンドラは以前ナヴァルが訪ねた時の答えと似通った返答で応える。

 その内容を簡単に言い換えれば、グリフティフォンの機能を使用する事は現状でも可能と言う事となる。

 だが――。

「しかし、本機のコアジェネレーターは依然として稼働不能状態にあり、現在本機は本機のゾイドコアを利用した外部発電を主機、本社直轄の原子力発電所からの給電を補機として稼働しております」

 それらの装備・兵装を稼働させる為の莫大な電力を発生させる中枢部の再稼動は、目途すら立っていない状態にあり――今のグリフティフォンは、オルリア市に送電する為に仮設されている機外のコアジェネレーター等によって活動しているのが現状だった。

「本機に搭載された特殊兵装の運用は現時点でも可能となっておりますが、外部給電によって稼働している現状では戦闘に耐えられると判断できません」

 そして、その状況を指示した張本人であるアイヴァンがソレを知らない筈が無く――。

「――以前入力した状況が成立した場合の予測を提示しろ」

 アイヴァンはその確認に対して眉も動かさずに次の情報を――これも自身が指示した内容の説明をパンドラに命じる。

「現在の惑星Ziにおける最新・最大の動力機関であるエナジーチャージャーの実機、もしくはその詳細なデータを入手できた場合、それを元に本機のコアジェネレーターの起動検証が可能となると思考します」

「……その先の状況予測も変更は無いな?」

「肯定。起動検証が成功した場合、本機のコアジェネレーターを稼働させる事が可能となります」

 ――? なんだ、今の言い回し……。

 先程のパンドラの言動から、グリフティフォンのコアジェネレーターを今使用する事が出来ないという事はナヴァルにも理解できた。

 しかし、パンドラの言葉に妙な引っ掛かりを覚えたナヴァルはその違和感に思考を巡らせ――。

「…………ちょっと待て、もしかして――コアジェネレーター自体はもう直ってるのか?」

 ナヴァルは思い至ったその引っ掛かりを、パンドラに向けて投げ掛ける。

「肯定です」

「――――」

 そうして間髪置かずに返されたパンドラからの即答により、ナヴァルは驚きと呆れを一緒に味わう事となった。

「しかし、本機の他の項目と同じように、コアジェネレーターの保全に関する項目にも欠損の可能性があり――その検証を行わずに起動を実施する事は、本機に対する保安プログラムの構造上不可能となっております」

 コアジェネレーターの状態は知っていたらしいアイヴァンも、パンドラが起動を差し止めている理由までは知らなかったのか一度顰めた眉を大きく引き攣らせる。

 ――か、堅物と言うかお役所仕事と言うか……。

 パンドラに多々ある面倒な点の1つ――理解して弄ると可愛い点でもあるが――に、ナヴァルは内心で頭を抱える。

「――そういう状況だ。……数ヶ月ほど前に修復が完了してからずっと、『(仮称)グリフティフォンの管理ユニットとして、安全規定をクリアしなければ再起動させる事は出来ない』という一点張りだ」

「なんというか……すいません」

「構わん。……グリフティフォンのコアジェネレーターは正・副・予の三重式だが、大型で複雑な形状故に機外での起動試験は出来ない。そして最重要区画の安全を確保しならないパンドラの判断が正しいのも事実だ」

「――社長、例の産業スパイやネオゼネバス帝国軍に潜入させた人員の状況は……?」

 コアジェネレーターの現状に対し、脱力させられるような感情に晒されたナヴァルであるが、場の流れを作った者としての責任――そして、今のTYPHON社の苦境に対する憂いから、分不相応な言葉をアイヴァンに投げ掛ける。

「情報の収集を急ぐように命じたが、返信はまだ来ていない。――消されたと見るべきだろう」

 アイヴァンからすればソレはただのパイロット風情からの意見だったのだが、彼はパンドラの占有者からの意見として受け取り、TYPHON社の長として情報戦での敗退と言う結果を返答する。

「それでは、裏工作で入手する事は……」

「不可能という事だ。……まったく、潜入に10年近い歳月を割いたというのにな――流石はかつて世界を席巻したネオゼネバス帝国と言う所だ」

 ナヴァルが続ける言葉に、アイヴァンは自虐の様な呟きを重ねる。

「――だが、それに関しては次の手を打った」

 しかし、アイヴァンが消沈しているかの様に見えたのはほんの一瞬であり、次の瞬間には鋭い眼光と共に次の方針を発する。

「……攪乱の種火としてガイロス帝国に送り込んでいたティフォリエス小隊を使用し、連中がニカイドス島への侵攻を行った。――これに便乗する形でミューズ方面の戦力を投入、ニカイドスのエナジーライガーを奪取する」

「っ!? ミューズ方面を決起前に動かすのですか!?」

 アイヴァンが口にしたその計画に、ナヴァルは思わず声を上げた。

 決起用に隠匿されているミューズ方面戦力――第5世代機やソレに対抗出来るゾイドが主流となりつつある昨今において、第4世代機(ジェノザウラーNEXT)等で構築されたその戦力は旧式の部隊ではある。

 しかし、例え能力で劣っていたとしても、組織的に構築された戦力は軍隊でなければ対抗出来ない程の力であり――。

 同時にウェシナの宗主国であるエクスリックスを挟撃出来る位置に有るこの戦力は、秘匿や配置、その維持にも甚大な労力を投入していた代物でもある。

「例えゾイド戦に置いて優位な状況に立てるラファルやウラガンが完全な状態に成ったとしても、グリフティフォンが動かなければ『決起』は成功しない」

 アイヴァンはその決断を改めて口にし、情報戦の結果を挽回する為の賽(さい)を壺に放る事を宣言する。

「エナジーチャージャーだけ出も持ち出せれば“グリフティフォン(コレ)”は動く。……ミューズ方面を使い潰す価値はある」

 アイヴァンとてミューズ方面の戦力をここで失えば『決起』の成功が更に難しくなるのは判っている筈であり――それでも『決起』の要諦であるグリフティフォンが起動出来ない可能性を減らす為に決断下したのだ。

「――――」

 そのアイヴァンの決意に圧され、ナヴァルは沈黙する。

「……パンドラ、次の質問だ。――衛星の掌握率はどうなっている?」

「現在の衛星掌握率は、目標に対して11%前後に留まっております」

 ――っ!? そんなに低い状態だったのか……?

 しかし、その決意に対するナヴァルの感傷は、パンドラからの冷酷な数字によって直ちに凍りつく。

 『衛星反射砲』とTYPHON社が称するグリフティフォンの砲は、ソレ単体では惑星外方向にしか照射出来ないという非常に限定的な代物である。

それを再び地上に返すのが『衛星反射砲』の原理であり、簡単に言えば収束した光と屈折させる鏡――。

 巨大なレーザー発信装置であるグリフティフォンと、その向きを変える複数の衛星が揃って初めて地上攻撃が可能となる兵器であり、鏡である衛星が使えなければ無用の長物であると言える。

「本機が搭載する高度演算機構を用いたハッキング工作は今も継続しておりますが、対象が同世代の電子戦能力を持つ機材であり、また他の勢力の監視の目を掻い潜らなければならない事から進捗状況は芳しくありません」

 ちなみに少々今更な説明になるのだが――惑星Ziで運用されている通信衛星の類は、大きく2つに分類できる。

 1つは各国が自力で打ち上げた衛星群。

 これは数十年前に滅亡し、今は存在しない国家であるゼネバス帝国――ネオゼネバス帝国はその後継を称してはいる――が得意としていた技術体系であり、ネオゼネバス帝国とガイロス帝国、そして割合は少ないがヘリック共和国がこの系列の衛星を使用している。

 そしてもう1つは現存する最古の国家体制であるヘリック共和国の“建国以前から存在していた”衛星群。

 これ等はエウロペ大陸を中心とした各所に点在する“古代ゾイド人の遺跡”群――その中でも稼動中である“生きている遺跡”と同じ系統の遺産であり、ヘリック共和国を主軸とした大凡全ての国家はその制御権を奪取する形でそれらを利用している。

 そして、それら衛星の性能と打ち上げコストの関係上、割合的には“遺跡衛星”の方が惑星Ziの衛星ネットワークの多数派を占めているのが実情であった。

――こうやって考えてみると、最近の生活に必須となる重要インフラを良く判らない物に預けている事になるんだよな……。

TYPHON社はその事実の先にあるもの――ソレ等の製造元や各々の衛星の真の機能等をパンドラから教えられ、その利用方を模索しているのだが――。

そういった一日の長があったとしても、制御権を奪取して利用している列強国に察知されずに仕掛けを組み込むのは難しいと言うのが現実であるらしい。

「情報部から『パンドラがこの状況を打破できる情報を持っているのでは?』という報告が上がってきている。詳細を答えろ」

 ナヴァルが衛星の実情とそこから派生した蛇足を思う中、アイヴァンはパンドラに対して更なる質問を続ける。

 その詰問しているかの様なアイヴァンの言葉にナヴァルが引っ掛かりを覚えたのと同時に、何かと協力的になってきているパンドラに限ってそんな事はないだろうと思ったナヴァルであったが――。

「情報部の調査結果を精査した結果、ウェシナ・サートラル領内に存在する“アルフェスト遺跡”が本機の開発工廠であったと推察できる検証結果が出ております」

 「…………はぃ?」

 パンドラは容赦なくナヴァルの予測に反する答えを発した。

 ――…………そうだったな、訊かないと答えないのがコイツだったな。

 その結果に、ナヴァルは『……発言せずに本当によかった』と安堵と教訓を心に刻みつつ、会話の推移に集中する。

「その推察から、“アルフェスト遺跡”には衛星群のパスコードも存在していると予測します。――これを用いれば衛星の防壁を突破する必要性が消失する事から、衛星の掌握効率向上に大きく貢献すると当機は思考しています」

「――――成程な」

 パンドラの言葉を要約すれば、深く知る物の特権――出自が似通った者故の裏技があると言う事だろうか。

「…………」

 だが、遅々として進んでいない“遺跡衛星”掌握に関する吉報だと言うのにアイヴァンの表情は苦々しいままであり――。

「開発工廠……それは本当に我々の為の情報か?」

 呼吸2つ分の沈黙の後、アイヴァンはナヴァルが考え付きもしなかった疑惑を、詰問としてパンドラに差し向けた。

「――アイヴァン・グランフォード。それはどういった意味でしょうか?」

「お前が自分の存在を確かめる為に、我々を利用しようとしているのでは? と、そんな危惧も情報部は報告して来ている」

「……は?」

 最初は呆気に取られてしまったナヴァルだったが、アイヴァンが重ねる詰問に呆れを伴った言葉が漏れてしまった。

 出会ってから今に至るまでのやりとりから、ナヴァルはパンドラが自分の本当の名前を密かに欲している事を薄々感じてはいたが――。

 その案件が情報部から上がってくる事、そして、パンドラがTYPHON社を利用してまで知ろうとしているというアイヴァンの疑惑は――ナヴァルの予想を超えるものだった。

「もう一度問う。これは、お前が失っている“自分の名前”を得たいが為の行動ではないのだろうな?」

 だが、それ以上にナヴァルが驚いたのはアイヴァンの口調だった。

 それは仲間に向ける物とは思えぬ程に鋭い口調であり、その責める様な言動に対し、ナヴァルは強い違和感を――怒りにも近い感覚を感じていた。

「――――ソレを判断するのはアイヴァン・グランフォードです。疑念の対象となっている当機に意見を求めるのは、意味の無い事であると思考します」

「…………」

 だが、そんなナヴァルの思慮を他所に、パンドラはアイヴァンの問いに普段と変わらぬ管理ユニットとしての応えを返し――アイヴァンは固い表情のまま目を瞑り、考えを纏める様に沈黙する。

 ――……そうか、社長はパンドラの事を知らないだな。

 パンドラはTYPHON社を裏切る事は無い仲間であると、ナヴァルは誰に対しても胸を張って言える。

 言い換えれば、ナヴァルはこの信頼が裏切られても良しと言えるほどにパンドラを信頼しており――同時に、そんな事は起こらないと思っていた。

 しかし、アイヴァンにとってのパンドラは難解な折衝相手でしかない。

 そして、そこから来る悪感情がパンドラの提供する情報の真偽を惑わせているのだと――ナヴァルはアイヴァンの思考をなんとはなしに理解できてしまった。

 ――まぁ……確かに、取っ掛かりが判り難い奴だからなぁ……。

 簡単に言い換えれば、アイヴァンの目には疑念というフィルターが常に掛かっている様な状態であり、パンドラの事を見破るだけの経験がなければ信頼しろと言うのは無理からぬ事なのだろう。

「……ナヴァル・トーラ三等官。訓練行程を終えた人員で構築されたラファル小隊を預ける、情報部のローメル課長率いる調査部隊と共に“アルフェスト遺跡”及びその周辺の施設を制圧し、情報を引き出して来い」

 そうして、長い熟考の後に下したアイヴァンの命令は、パンドラの情報を正しいと仮定したものだった。

 その苦虫を噛みつぶしたようなアイヴァンの表情は、その探索命令がパンドラの事を信じたのではなく、他に手が無いという妥協による物だと如実に表していた。

「了解しました。――必ず、情報を持ち帰ります」

 理論的に考えれば、致し方の無い決断。

 そして、その命令は現状で最も妥当で、未来のある決断であったのだが――ナヴァルは何故かそれをとても寂しいと感じた。

「調査に関する全体指揮をローメル課長に、戦闘・探索の現場指揮はナヴァル三等官に任せる。――必ず成功させろ」

 その命令を最後に、ここでの目的を達したアイヴァンが席を立とうとした瞬間――。

「アイヴァン・グランフォード。(仮称)グリフティフォン管理ユニット、パンドラより提案があります」

 その背に向け、パンドラは自ら発言する事でナヴァル達を引き留める。

「……なんだ?」

「調査には当機の子機ユニットも同行します」

 そうしてパンドラから続けられた言葉は、ナヴァルとアイヴァンがまだ知りえない存在を含んだ提案だった。




 管理室での会談を終え、本社でその後の成すべき準備を終えたナヴァルはグリフティフォンへと戻って来ていた。

 そして、その道中――今考えても仕方の無い事と思いつつも、先程の会談で聞き知った情報に考えを巡らせていたナヴァルは、自分の部屋の扉の前ではたと足を止めた。

 ――……ここに戻るまでの記憶が曖昧だな。

 移動の手筈を整え、協同するラファル小隊やローメル課長の隊員との顔合わせを済ませ、預かっているパイロット候補生達に課題を通達した所までは覚えていたが――。

「…………参っているんだな、俺は」

 そこで集中が途切れたのか、ここに戻るまでの記憶がナヴァルには残っていなかった。

 ――ただでさえ厳しかった状況は更に悪化。……そんな中で打てる手は、ほんの僅か……か。

 そして、ナヴァル自身がラオの事でまだ折り合いをつけられていない件も重なり、拭い切れない陰鬱の影を感じながら彼は目の前の扉を開ける。

「(仮称)グリフティフォン管理ユニット、パンドラが対応します。――お帰りなさいませ、ナヴァル・トーラ」

 その先には――思いがけない先客が居た。

「……パンドラ?」

 確かに朝食や夕食等の際に同席する事から、この部屋にパンドラが居る事自体は珍しくない。

 だが、今のパンドラは部屋の中央にあるテーブルの上でナヴァルが見た事の無い形状の金属製の器を組み立てており、彼の入室と合わせるように彼女は着火用のトーチを取り出す。

「……それは?」

「『香』と呼ばれる物だと記録されております」

 そして、ナヴァルの問いに応えるのと同時に、パンドラは金属製の器の中に置かれた細長い棒状の何かに火を灯し――匂いを纏った一筋の煙が部屋の中に立ち上がる。

「煙草の類か?」

「趣向品と括り、同じ物と分類する場合もありますが――違う物であると発言します」

「そうか……」

 返答は静かなものであったが、“煙草(唾棄すべきもの)”と同列に扱われた事を強く批難しているかのようなパンドラの言動に、ナヴァルは大人しく同意で通す。

「――――」

 そして、そのままテーブルの脇を通り過ぎようとすると――僅かな香りが、荒んだ思考の隙間に入って来た。

 ソレは草の焼けるような、はたまた森の中に居るような不思議な香りであったが――。

 ――なんだろうな……やけに落ち着く。

 その苦くも清々しい様な煙の香りを心地よいと感じ――その平穏を欲するように、ナヴァルは自分の作業机に向かうのを止めてテーブルの椅子に腰掛ける。

「先日、管理区画の最適化を行った際に発見しました。――香炉と呼ばれる台座は当機が再起動して間もない頃に発見していたのですが、運用する為の消耗品を今まで確認する事が出来ませんでした」

「……そういう類の物は嫌いじゃなかったのか?」

 自発的に説明を始めるパンドラの言動を珍しいと感じつつも、ナヴァルはその薄く煙る白い筋から、彼の脳裏にはつい先日にも起こった煙草紛争――思い出しただけでも胃が痛くなる光景――が浮かび、思い立った疑問をそのまま彼女に向ける。

「――――詳細は不明ですが、当機の思考に負荷が発生しておりません。また、人体に対して常習性が無いとの記録もあり、清掃も容易です」

 そんなナヴァルの問いに対し、パンドラは幾つもの理由を述べ――。

「そして、記録されている『香』の効果は、今のナヴァル・トーラには必要であると判断しました」

 最後に、パンドラは自分の中にある本当の目的をナヴァルに伝えた。

「そうか。……助かるよ」

 経緯はともかく、香りだけを残して消える煙と共に感じるパンドラの気遣いを有難いと感じつつ、ナヴァルはソレに浸るように目を閉じる。

 “アルフェスト遺跡”群への侵攻――正確に言えば、厄介事を持ち込んだ際、生きて帰ってきた者が居ないと実しやかなに噂されているウェシナ・サートラル領に侵入する事に躊躇は無い。

 だが、ニザムの隠蔽拠点が落ちた事が――恐らく、今のナヴァルにとって最大の楔となっている事は、彼自身も判っていた。

 ――再会の約束が最後の会話になるなんてな……まったく嫌な話だ。

 先程は状況に流され、しなければならない事を優先する事で押し留めたが――。

 その状態から離れ、一度でも緊張の糸が切れれば後悔や心残りが溢れてくる。

 ――そういえば……育ての恩とかを返せなかったな。

 つい先日までのナヴァルは、育ててくれた事は両親の殺害に関わった件を無かった事と思う事でチャラだと考えていたが――。

 その機会が失われた瞬間になってから、幾つもの“もしも”が浮かびあがってくる。

 ――せめて、言葉だけでも…………。

「ナヴァル・トーラは、何を目的に生きているのですか?」

「……はぃ?」

 そんな無限に墜ちていく様な思考迷路に入り掛けた瞬間、パンドラからの唐突で抽象的な質問にナヴァルは疑問を擬音で返してしまう。

「男性は資金力と権力を元に、優秀な子孫を残す為の女性を求めるものであるとの情報を先日獲得しました」

「――――ちょっと待て。その情報には途轍もない偏りと偏見があるぞ。……どこの情報だ?」

 だが、その擬音の様なナヴァルの問いに返されたパンドラの言葉――その露骨で配慮も無い言葉に、彼の思考は嫌な意味で一気に明確になる。

「『拡張部位のメモリーバンク、辞書、一般常識フォルダ』を主軸とし、その他補填資料を収集・精査した結果となります」

「…………」

 先日の朝飯の件が明確な契機になったものの、ナヴァルはパンドラの事を人間として扱っており、ソレは正しいのだろうと彼は思っているが――。

 ソレはソレとして、演算によって全てを客観的に見ているパンドラに嘘偽りは基本的には無い。

 ――つまり、人間……つーか男は所詮そんなものという事か……。

 そのしょうもない事実に、ナヴァルはなんとも物悲しい気分になったが――その内情を知る由もないパンドラは、答えが返されないまま質問を再開する。

「ナヴァル・トーラは潜在的な能力及び理解力に非凡と言える才能を有し、尚且つ向上心も保有する優秀な男性であると判断出来ますが、それを資金力や権力に転化させようという努力に欠けていると思考します。――当機はその理由を求めます」

「あー……うー……」

 そうして続けられた内容――迷いの無い真っ直ぐな視線を伴って、そこまで誉め倒されると――正直照れるを通り越して居た堪れなくなる。

「ナヴァル・トーラの体温及び脈拍数の上昇を検知。――艦長室の環境を確認、異常無し。――ナヴァル・トーラ、何か体調に問題が?」

 そして、中身はどうであれ、外見は見目麗しい女性からそんな事を言われて動揺しない男はまず居ないだろうというのに――パンドラは畳み掛けるように質問を続けてくる。

「…………」

 ――む、無自覚なのがここまで厄介とは……!

 その猛攻に、ナヴァルの中に判っていて狙っているんじゃなかろうかという疑念すら浮かんでくるが――。

「い、今はそう言う事……そんな曖昧な単語じゃ判らないか……。交配……いやいや、そんな生々しい単語は人間に対して言うもんじゃない――そう、伴侶だ。今はそんな存在よりも優先する事項があるだけだ」

 だが、ここで返答しなければパンドラの猛攻が止まらないのは明白であり、ナヴァルの返答は気恥ずかしさの中から渾身の答えを搾り出す。

「――生物の目的を果たさなくても、人間は生きていけるのですね」

 しかし、ナヴァルの答えはパンドラの思考を揺さぶるような返答ではなかったらしく、彼女は新しい情報を記録したと言ったようなドライな対応を返す。

「いや、一応TYPHON社の運命の幾らか位は背負っているから、人を益体無しか何かの様に言うのは止めて欲しいんだが……」

 確かにパンドラの言った通り、家庭や生活と言うモノをナヴァルはあまり考えていなかったが――今の自分には『決起』と言う成さねばならない目的があると彼は思っていた。

 ――『決起』、か……。

 だが、はたとそれを思った時――本当に自分は『決起』に向かって歩いているのだろうかとナヴァルは疑問に思ってしまった。

 パンドラと行動を共にする様になってから、ナヴァルは彼女と出会う前の自分では考えられなかった程、物事を酷く客観的に見る様になってしまっていた。

 そして、つい先日――ニザムの隠蔽拠点を出る頃、ナヴァルは『決起』を決意として口にする事も出来なくなった。

 ――もしも、パンドラにTYPHON社の目指す戦いをどう思うかと問えば……。

 人間の主な生命活動である経済が逼迫し、生命の危機に陥った状況以外で――主義主張で戦乱を引き起こす事は、最も愚かな者の所業である。と、パンドラは返すだろう。

 ――もしかして、俺は……。

「――ナヴァル・トーラは、自分達の先に未来があるとお思いですか?」

 恐らく、今のナヴァルが考えてはいけない深淵に彼自身が触れようとした瞬間、パンドラの核心を突いた静かな言葉がレイピアのように彼の思考に突き刺さり、衝撃と共に彼の思考は現実に戻される。

「……何?」

「西方大陸都市国家連合――通称ウェシナが開示している戦力情報及びTYPHON社情報部からの調査結果を検証した結果、アイヴァン・グランフォードが提唱する『決起』が達成される可能性は0.64%となっております」

「…………随分と低いものだな」

「緒戦、及び本機の極大出力レーザー兵器による恫喝までの成功確率は64%と実施可能な状況にありますが、それ以降のウェシナ・ニザム領内のウェシナ戦力の排除に関しては21%、同領域の独立に関しては3%という予測がなされており、目的の達成は不可能と言えるレベルにあると判断します」

 そう、それらは――ナヴァルが既に理解していた事。

「――また、TYPHON社の技術力と保有軍事力を盾にしつつ、同連合に恭順を示した場合、ウェシナ・ニザム領の自治権確立という目的を達成出来ると予測しています」

 そして、パンドラが今提示した案件も――既にナヴァルが考えていた事。

そんな理論を無視し、徹底的な自己肯定が出来るのがテロリストであり――TYPHON社の中にも、その感情に従っている者も少なくはないだろう。

 だが、ナヴァルはソレが出来る程、ニザムに縁を感じていない。

 何も考えずに戦争反対等を叫ぶ者の方がよっぽど開戦への道を速めているという現実の通り、知れば知る程に――人間は事を起す事に疑問を感じてしまう。

  簡単に言ってしまえば、今のナヴァルはパンドラと長く触れていた事で、“そういった結末”が簡単に考えられるようになってしまっていた。

 そうなれば、もう――人間は自分からは動けない。

 ――だが、それでも……。

 たとえ愚かな選択であったとしても、行動を決断し、損害を与え、被害を受けた以上、もはや止める事は出来ず――。

 渾身の力を込めて殴り合い、自分達の全てを掛けても届かなかったと悟った後にしか――その熱が止まる事は無いのだろう。

 そんな幾つもの思考を走らせたナヴァルであったが、今の彼にはパンドラの提案とも忠告とも取れる言葉に応える術はなく――。

「…………そう言えば、付いていくと言っていたような気がしたが――ここの管理はどうするんだ?」

 ナヴァルは先の会談の時に気になった事を新たな話題に乗せる事で、パンドラの疑問の応えを有耶無耶にする。

「当機は本機より離れられません。よって、ナヴァル・トーラの同行には子機を製造します」

「……子機? ドールとは違うのか?」

 ナヴァル達にとっては日常的な単語だが、ここで言うドールとはグリフティフォオン内でパンドラの手足となって各所の修復作業をしているパンドラの分身達の事である

 分身と記載しただけあって、それ等全ての容姿は髪と衣装の短いパンドラのソレであり――自意識も無いそれ等を彼女と称するのはナヴァルでも抵抗を感じる存在でもある。

「ナヴァルの能力値では、ドールをそこまでの超長距離に展開する事が出来ません」

「そうか……んじゃ、子機って言うのは?」

 そして、パンドラから続けられる返答から、所有者抜きでも万全の様に見える彼女にも不具合はあるんだな、と聞き知った情報を記憶の端に留めながら、ナヴァルは続きを促す。

「ご覧になりますか?」

「今、俺が見ていいものなら」

 その要望にパンドラは右手を背中に回し――荷物を取り出すように、手の平に乗せたソレをナヴァルの視線に晒す。

「――こちらが当機の代理としてナヴァル・トーラに同行する、当機の子機となります」

「…………なに?」

 差し出されたパンドラの手の平の上には、手乗りサイズにまで縮小された彼女と同じ姿をしたモノが居り――。

「子機が“アルフェスト遺跡”まで同行します。ナヴァル・トーラ、短い間になりますが、よろしくお願いします」

 両手でスカートの裾をつまみ、軽く体を曲げるようにお辞儀をした。

 ――こ、このサイズで自立行動だとぅ……!?

 そんな一連の所作によってナヴァルが受けた衝撃は、絶大だった。

 15cmにも満たないサイズでありながら人と同じ様な行動が出来る。

 その事実は、人が入れないような閉所で作業をする事が出来ると言う可能性を生むものであり――上手くすれば、工業や警備の分野で常識を覆すレベルの事業を展開出来るかもしれないという事でもある。

 筋力や視力、稼働時間や思考方式はまだ不明だが――その動作で判った事実だけでも、利用方法が有り過ぎて逆に最適解が思いつかない。

 そして、そんな理論等よりも――。

 ――パンドラと同じ姿をした者が人間の少女の様な行動を取る…………まさか、これ程とは。

 その所作――残念ながら、表情は冷めたままだったが――の可愛らしさは、ナヴァルが思考を放棄する程に愛らしかった。

「…………これ、量産できないのか?」

 その愛らしさに溶けていた思考を何とか立て直したナヴァルは、努めて冷静に転用の可否をパンドラに問いかける。

「製造に必要なリソースは本機が1日に生成出来る値の1/3に相当し、子機の想定稼働時間も240時間と設定。――今回は“アルフェスト遺跡”で得た情報を安全に輸送する為に製造致しましたが、量産は非現実的かと」

「――そうか」

 一般事業では採算が合わないコストであっても、金持ちの親バカや趣味に命を懸けている人種には売れるのではとナヴァルは考えていたが――人生はそう上手くは行かないらしい。

 ――コストも掛かる上に長く持たないんじゃ、商売として成り立たないからな……。

「あぁ、そういえば――」

 そんな会話の寄り道をした事で、ナヴァルの思考は様々な感情に一区切りを付けられたらしく――彼は、この状況下で必ず聴かねばならない事に考え至る。

「TYPHON社が勝てる見込みがない行動に、どうしてお前は付いて来るんだ?」

「――兵器及びその構成員は、自ら思考せずに命じられた目的を果たす存在です」

 十中八九負けるであろう行動に付いて行く狂気――ナヴァルが答えを出せなかったその問いに、パンドラは簡素な理論を返した。

「…………まぁ、その通りだな」

 パンドラの感情を排した軍事力の理想。

 所詮は不正規兵であるナヴァルは失念していたが――パンドラからすれば、ナヴァルの問いは国を守る為に動いている兵士に対して『お前の国は負けるから降伏しろ』と言うような御門違いな物だったのだろう。

 ――軍事力は、国家や組織の手足……だったか?

 掴まなければならない物が灼熱に熱せられた鉄の棒であったとしても、軍事力(手)は組織(脳)に命じられた通りにその行動を実行する。

 自らが傷つく事を恐れて手が脳の命令を拒否する事は無いし、脳の命令で動いた手の失敗を脳が手に糾弾するというのも間抜けな話であり――。

 パンドラの事を組織に属する軍事力と考えれば、彼女の答えは理に適った対応なのだろう。

「――だけど、パンドラはTYPHON社が保有している軍事力じゃないだろう? ……そんなお前は、俺達の馬鹿な事に付き合う理由は無いんじゃないのか?」

 だが、ナヴァルはその正しい理論に更なる質問を続ける。

 彼女と出会う前――いや、少し前までのナヴァルであれば、今のパンドラの返答で納得してしまっていただろう。

 しかし、パンドラがナヴァルに与えた様々な機会を確実に自分の物としてきた今の彼は、そんな表向きの理論だけで思考を止めない。

「――――」

 そして、ナヴァルに更なる質問を向けられたパンドラは、応えに迷う様に一瞬だけ視線をずらす。

 その所作が、突かれたくない事を聴かれた時に出るパンドラの癖だとナヴァルは覚えており――。

 だからこそナヴァルはその先――パンドラの本心であるその先の答えを、彼は聴きたいと思った。

「――本機及び当機を再起動させ、交渉の後に契約を交わしたのは貴方方です。当機が守る規定には、約束を守らぬ存在に未来は無いと記載されており――当機はソレを順守しているに過ぎません」

 そうして返されたパンドラの答えは、真っ直ぐで不器用な――とても綺麗な理論だった。

「………………律儀だな、お前は」

 その愚直で清々しい答え――難解な理論の権化が発したものとは思えぬソレに、ナヴァルの口から思わず呆れたような呟きがこぼれる。

 ナヴァルにとって、漏れ出たソレは賞賛の言葉だったのだが――。

「そのような感情は、当機には実装されておりません」

 パンドラはナヴァルの呟きの中に含まれる感情の類語がお気に召さなかったらしく、鋭い即答での否定を返す。

「そうだな……そうだった」

「――ナヴァル・トーラ。その対応には誠意が無いと、統計データが示しています」

 そして、パンドラとの会話の中でお約束となっているこの流れに、ナヴァルの口元は自然と笑みが浮かび――その状況を察知した彼女は、対応を否定から追及へと変化させる。

「本心だよ。……香、だったか? ありがとな」

 その流れ――少し前の経験則からあまり突き過ぎると後が怖いと理解しているナヴァルは、早々に降参しながら本心を告げる事でパンドラの追及を躱す。

 ――……あと、さっきお前は俺の事を優秀な奴って褒めてくれたが――俺もただの単純な男(バカ)だったみたいだぞ。

 『決起』を続ける事に迷っていたナヴァルは、その陰鬱な感情を晴らしてくれた新しい願いを思いながら、明るく自嘲する。

 ナヴァルはその簡単に予想出来てしまうTYPHON社による『決起』の結末を選べないでいるが、そんな状況の中でもパンドラは最善を尽くすと言っている。

 ――世界によっては、確固たる意思がある者だけを人間と言うらしいが……それが世界の真実だとしたら、コイツの方がよっぽど人間らしいな。

 ナヴァルはパンドラの様に、失敗すると判っている行動に全てを掛ける様な酔狂な事は出来ない。

 だが、そんなナヴァルの中に、パンドラの選んだ未来がどうなるのかを一緒に見たいという欲が――今、この瞬間から湧き上ってきていた。

 ナヴァルの口は『決起』の決意を言葉として表す事は、今も出来ないが――。

「……勝ちに行くぞ、パンドラ」

 パンドラの未来を少しでも先に延ばす事――その未来を一緒に見たいと願う事は、今のナヴァルにも言う事が出来た。




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