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 フィアーズランス艦隊による、ニカイドス島ロムルス基地の奪還成功より数日間後――。

「……お待たせしました」

 同艦隊所属の歩兵部隊によって制圧され、西方大陸都市国家連合(ウェシナ)軍に接収された同基地の中央ブリーフィングルーム――現在では仮設の指揮所として運用されている部屋に、黒髪黒瞳の小柄な女性とその護衛と思しき銀髪黒瞳の少年兵が入室してくる。

「構わんよ。調査、ご苦労だった」

 それに応えるのは、部屋の中央に備え付けられた会議机の上座に座っているこげ茶色の髪と瞳をした男性――現時点におけるこの基地の最高責任者であるフゥーリー・クー少佐その人であり――。

「アッシュ中尉、覗いたりしなかったでしょうね〜?」

 その左手側で資料を広げていた赤毛の女性士官、ガーネット・アルトメリア・シールアンク大尉も彼等の入室に手を止め、冗談を織り交ぜた歓待の声を上げる。

「そんな回りくどい事、俺がする訳ないっしょ? ……まぁ、浴室に敵が潜んでたりすれば、色々出来て楽しかったんだろうけど」

 ガーネットから投げかけられた冗談にそんな持論を返した“見掛けは”少年に見える男性士官、アッシュ・バルトール中尉はそう言って引っ提げていた小銃を見せびらかす様に持ち上げてから、少佐の右手側――ガーネットの対面に当たる位置に移動する。

「…………」

 そして、話題の渦中に居る女性――ラフィーア・ベルフェ・ファルスト中尉は、彼等の気遣いに感謝しながらガーネットの隣へと向かい、それによって少佐が招集したメンバー全員が席に揃う。

「……ラフィー、大丈夫だった?」

「……はい。……内部に潜り込む破目になりましたので、油塗れになりましたが」

 ガーネットが改めて投げかけてきた心配に対し、ラフィーアは淡々とした説明で返し、先程スリープさせていた自分の端末を開く。

 この会議の招集に際し、基地内に散乱している不明機体の先行調査を命じられたラフィーアは、つい先程まで大破した機体の検分を行っており――成果を得る為に残骸の奥深くにまで潜り込んだ為に、ほんの十数分まで全身黒ずみだらけという状態だった。

 そんな状態を見かねた少佐の計らいにより、基地に設けられた浴室の使用許可を得たラフィーアは、ウェシナがこの基地を接収してから初の使用者となり――入浴と着替えを手早く済ませた彼女は、髪も乾かぬ内にここへ戻ってきた。

「よし、んじゃ始めるぞ」

 そうして準備が整ったと判断した少佐は、そう号令を発し――彼等彼女らがここに集められた理由が動き出した。




 ストライク・フィアーズの行ったロムルス基地奪還作戦は彼等の思惑通りに進み、鹵獲に成功した2体のエナジーライガー改も偽装を施した上での収容を終え――ほぼ完璧と言える形で作戦完了に至っていた。

「――そうだなぁ……確かにレーダーに映り難いのは面倒だったが、感じとしてはむしろジェノザウラーNEXTの方が歯応えがあったぜ」

 しかし、その渦中で現れた想定外――スピノサウルス型の正体不明ゾイド、仮称で“スパイナーもどき”という安直な名称を付けられたソレ――に対する意見を固めるべく、彼等はここに集まっていた。

「ガイロスの新型という可能性は?」

「……ありません」

 彼等の中で一番長い間その敵機と接触していたアッシュの報告に対し、少佐は自分の左手側、技術者としての見解を聴くべく召集していた2人に向けて言葉を発し――彼の問いに対し、水を向けられたラフィーアは即座に否定の断定を返す。

「断言か。……理由は?」

 先の戦闘で交戦経験もあり、少佐が最も信頼を置いている女性士官でもあるラフィーアの反応に対し、彼は即座に次の言葉を促す。

「……ガイロス帝国軍には第4世代機としては最高位の総合力を持ったジェノザウラーNEXTがあります。……第4.5世代機等の次世代機ならまだしも、今の状況で新しい第4世代機を開発・量産するとは思えません」

「私も同意見だよ。あの隠蔽能力は確かに優秀だと思うけれど、あそこは軍事面で皇帝と議会とが真っ向から対立している国だからね、この情勢で支援機を量産する予算なんて出ないっしょ」

 そうして返されたラフィーアの戦略的な観点による答えに、その隣に座るガーネットが政治的な観点から来る補足を入れ――その返答を確かな物とする。

「――結局、あの機体に関しては『よく判らん』って事が判っただけ、か……報告する身としては頭が痛い問題だな」

 そう言って少佐は自分の頭を小突くという冗談めかした態度を取り、『何か他に情報になりそうなものはないか?』とその場に居る全員に視線を送る。

「機体に刻印されていた“TYPHON(ティフォン)”とかいう記号から追う線はどうなの? 私的にはかな〜り怪しいと思うんだけど」

 そんな少佐の要望に対し、ガーネットが新しい議題を提示する。

「…………」

 ガーネットが口にしたソレは、以前少佐が口にした事のある名称であり――ラフィーアの調べでは、北エウロペ大陸の北西地域を本拠とする軍需企業の名称であるらしいという事までは掴んでいる。

 ――……ですが、たかだか一企業があんな物を量産できるはずがありませんものね。

 しかし、個人で調べられる事をウェシナ本国が調べていない筈が無く、ラフィーアはその名称を捜査撹乱の為の偽装と決め付けており――特に意見する事無く、この場の流れを注視する。

「残念ながらソレは他の場所でも出ている名前でな、取り立てて新しい情報という訳ではないんよ。……まぁ、こんな場所で出た事自体には意味があるかも知れんが」

「だがまぁ……判った事も有るんじゃねぇの?」

 そんなガーネットの発言に対して少佐は現状説明を含めた返答を返し、その名前が目新しい事では無い事を周知させると――専門的な会話の流れに付いていけずにずっと沈黙を続けていた右手側から、そんな意見が飛んで来た。

「と、言うと?」

 その思わぬ所からの発言に、少佐は期待を込めて先を促すのだが――。

「……ガイロスの連中が、どうやってネオゼネバスの防衛網をすり抜けたのか……ですね」

「おう。実際に戦う分にはそうでもねぇが……この基地に居た奴等を適当な場所に上陸させて隠密行動させれば、東側の施設ぐらい簡単に落せるだろ?」

 しかし、水を向けられたアッシュは思わせぶりな目配せをラフィーアに送り、話の切り出し役を押し付けられた彼女は、ソレに動揺一つせずに正解を返し――自分と同じ意見だった事に安心したらしい彼は、彼女に続く形でそんな意見を口にする。

「そんな判りきった事を上に報告してもなぁ……」

「うわ、ひでぇ……」

 だが、少し考えれば辿り付ける様な結論に対し、少佐はその話題をあっさりと切り捨て、その対応にアッシュは呻き声と共に項垂れて沈黙する。――おそらく演技であるが。

 そんな遣り取りを経てから十数分後、4人はそれぞれの意見を更に重ね、核心に至れそうなアイディアを出そうとしていたのだが――。

「こんな所か……3人とも、忙しい中集まってもらってすまなかったな」

「……いえ」

「お役に立てて結構結構ってね。んじゃ、基地の周辺警戒に戻りますわ」

「上官のお呼びであればいつでも――あ、ラフィー、ちょっと待って。その新型の推定データを作るのに情報が足りないの、少し手伝って」

「……はい」

 結局ソレ以上有益な情報を得る事は叶わず、少佐のそんな号令を皮切りに招集された彼ら彼女らは、それぞれがそれぞれの礼を返しながら散っていき――そんな腹心達を見送りながら少佐は自分の端末に向き直る。

「さて――どんな報告書なら、おやっさんも納得するかねー」

 そして、少佐は自身の上官――フィアーズランスの総司令官であるプロブ・ウォルレット大佐に送る為の報告書という難題に取り掛かった。




 ロムルス奪還作戦より更に時は移り、一週間後――同基地を占有し続けているストライク・フィアーズの状況は、あまりよろしいものではなかった。

 それと言うのも、フィアーズランス艦隊がニカイドス島へ進路を向ける際、ウェシナ・ミューズで合流した補給船団の積み荷の殆どが弾薬や機体の補修資材であった事――要約すれば、駐留部隊の食料の類が充分と言える状況に無いのがその元凶であった。

 流石に餓えたりすれば士気に直結する為、量こそ充分ではあるのだが――多様性を主とした質に問題があり、更に言うと嗜好品に関しては“壊滅的”という状況も相俟って、基地内は今、陸の上に居るのに艦内に居た頃の方が待遇が良いという奇妙な状況にあった。

 ――……まぁ、仕方の無い事ではあるのですが。

 その原因は、ウェシナ軍の補給体制――というよりも、北エウロペ大陸(本土)の防衛体制に起因した、構造的な問題が原因にある。

 ウェシナの本土における基本的な物資輸送は、各所の港湾施設――内陸地ではオアシス都市群――を起点としたネットワーク構造であり、北部と南部で活動している2艦隊によって保護された領海を使用し、事前に大量の物資を輸送しておくのが常道となっている。

「……本来であれば、コレだけの簡易食料をあの短時間で用意できた事を称えるのが正解なんでしょうけれどね……」

 だが、ソレは本土近辺での活動に特化した構造であり、今回の様な遠征に際してはその問題点――自国領内であれば現地で手に入る物――先にも述べた食料等の欠乏が現実の物となってしまっていた。

 そして、そんな環境の中――無事に基地周辺の哨戒任務(今日の仕事)を終えたラフィーアは、昼食が載せられたトレイを持ちながら食堂の中にて空いている席を探し歩いていた。

「…………」

 ちなみに、ウェシナ側の奪還作戦より遅れる事1日半――ネオゼネバス側も島の東側にある拠点群の奪還を成功させているのだが――フィアーズランス艦隊は残党戦力による反攻阻止という名目を使用し、この軍港での居座りを続けていた。

 そして、そんな事態がまかり通っているのは、今のニカイドス島の情勢が思わぬ方向に転がっている為である。

 今回の事件を“実行した”のがガイロス帝国であれば、決定的な休戦条約違反であり、ネオゼネバス帝国とかの国との関係は致命的な物へと変わってしまう筈だったのだが――そうなるかと思われた事態は今、思わぬ方向に向かっている。

 状況を要約すると――当事国かと思われていたガイロス帝国はこの件に殆ど関与しておらず、この事件は徹底した平和路線で有名なあの皇帝を含む上層部の預かり知らぬ所で起こってしまった事態だという公式見解を示し、事件の真相究明とネオゼネバス側への復興支援を約束したらしい。

 確かに、奪還作戦においてウェシナやネオゼネバス側が捕縛した人員の半数以上は所属の判らない連中であり、正規軍に属していたと証言する将兵が少数に留まっているのもガイロス側の発表を後押しする要因となっているが――事実はまだ藪の中にある。

 そして、ネオゼネバス側も勿論ソレで納得している訳ではなく、一部とはいえ正規軍の暴発を抑えられなかったと言う落胆も重なって追求を強めているが――その混乱はウェシナ側への対処が放置されたままになっている事からも見て取れる。

 更に話を掘り進め、嫌な政治の話になるが――ニカイドス島の領有権争いは本来ネオゼネバスとガイロスの問題であるのだが、ウェシナも以前から名前だけは噛んでいる。

 それ故、この混乱に乗じ、ネオゼネバスとの関係を悪化させる事になったとしてもここを基点とした地域を実行支配に移すという選択肢もあり――情勢がどう変わるか、本当に判らない状況にある。

 ――……ネオゼネバスとの関係が悪化するのは避けて欲しい所ですが……今の状況では、上の決定に従うしかありませんからね……。

 しかし、そんな国家間の思惑はどうであれ、ラフィーアの所属するフィアーズランス艦隊はウェシナ軍有数の攻撃手段であると同時に、広大な領海を守ると言う任務を帯びた重要戦力であり――1か所に長時間留めておいて良い戦力ではない。

「……もう暫くすれば、移動ですね」

 歩きながら今の状況を再確認していたラフィーアは、考察の最後として至極単純な予測を口にする。

「――少佐の“2号”って話じゃないのか?」

「いや、たぶん違うと思うぞ」

 そして、そんな益体の無い事を考えていたラフィーアの耳に、復隊後にしばしば聞く様になった口汚い言葉が風に乗って流れてきた。

 その聞き覚えのある声――その中で後の方に聞こえた方は、奪還作戦時に自分の指揮下に付いた隊員の声だと考え至ったラフィーアが視線を上げると、進路上にある席1つに陣取っていた数人の男性パイロット達が談笑しているのが見て取れた。

「俺も最初は少佐の囲い者かと思ってたんだが……ゼニス乗りとしての腕はとんでもねぇし、士官としての判断も悪くない」

「あぁ、奪還作戦時の司令塔への精確な砲撃、エナジーライガーを鹵獲する時にやりやがった行動――正直な話、真似しろって言われても俺には出来ねぇな」

「しっかし、あんな奴がねぇ……俺はお前等が嘘をついている様にしか思えないぞ?」

「今朝だって少佐に後ろから締められて色々弄られてるのを見かけたぜ……ったく、偉くなったら何でもできるのかねぇー」

「…………」

 耳に届く言葉は中々辛辣なものがあり、ソレが好意的な物でない事はラフィーアもすぐに判ったが――彼女はそれを気にしない。

 彼らにして見れば、ラフィーアは唐突に表れた――それも厳しいと有名なストライク・フィアーズの入隊試験をパスできたとは思えない体格をした隊長であり、命令如何によってはそんな彼女の下に付かねばならない彼等の不満は尤もな事である。

「ちゅ、中尉殿!?」

「「――っ!」」

 その理論的な結論から疎まれるのは当然だとラフィーアは考えており、そのまま何事も無かったかのように大きく迂回しようとしたのだが――しかし、その途中で気付かれてしまい、彼等は慌てて席を立ちあがって齷齪(あくせく)とした敬礼を送ってくる。

「……お疲れ様」

 そんな彼等に対し、ラフィーアは簡単な敬礼と共に“何も聞いていない”といった対応で彼らから離れる。

 あからさまな上官侮辱を聞かれてしまい、何らかの処分があるのではと警戒していた彼等は――しかし、ラフィーアが特に何も言わずに離れていった事に動揺していたようだが、そのまま歩き去る彼女に対し、どこと無い気まずさを感じながらも着席する。

「……仕方の無い事です」

 そんな気配を背後に感じながら、ラフィーアは食堂の奥へと歩みを進め――たまたま空いていた、周囲に誰も居ない場所へと腰掛ける。

 ――……ある意味、彼等の反応は正しいものですから。

 外見通りの体力しかなく、右足にも若干の不自由があるラフィーアの身体能力ではここの入隊試験を突破する事は到底不可能であり、彼女がここに居られるのは少佐やその後ろに立つ彼女の“後ろ盾”に寄るものが大きい。

 与えられた役目をこなし、そして多くの戦果を上げている自分は隊の役に立っているという自覚はあるが――そんな後付の成果によって、正当な努力を重ねて来た彼等の上に立つなどおこがましいにも程があるというのがラフィーアの考えであり――。

「……っと。ラフィー、良い所に」

 そんな思考の元、何時も以上に冷めた表情で食事を続けていたラフィーアの脇に、彼女と同じく昼食が載ったトレイ――とはいえ、その総量に大きな差があるのだが――を持った小柄な女性が現れる。

「……ガーネット大尉?」

 1番最初に目に付くのは明るい燈色の髪、そしてその髪色とは対照的な青い瞳と――その小柄な身体には少々に合わぬ、エンジニアの証ともいえる上下のツナギ。

 そんな出で立ちの彼女がガーネット・アルトメリア・シールアンク大尉その人であり、ストライク・フィアーズの隊員がどうやっても逆らえない整備班長様でもある彼女は、格納庫から直行して来たのかそのツナギの端々には黒い油汚れが染み付いていた。

「ちょ〜と頼みたい事があってね。相席、大丈夫?」

 そう質問しながらも既にラフィーアの対面にトレイを降ろしているガーネットに対し、ラフィーアはその“頼み事”の内容を推察しながら了解の頷きを送り――。

 ――……さて、どんな話でしょうか。

 今さっきまで思っていた詮無い事を思考の端に押し退けつつ、3つほどピックアップした“話題”の準備をしながら――自分が持ってきていたパンに口を付けた。




「……ゼニス・ラプターの強化パーツ、ですか?」

 一緒に食事を始めたガーネットから振られた話はそんな内容だった。

「そ、本国やウェシナ・ファルストで継続中の『ゼニス計画』がそんなのを仕上げたって噂を聞いたんだよ」

「…………」

 その内容はラフィーアが良く知っている――と言うよりも、その計画の根幹となる物を探している彼女としては別に驚くような話でもなく、ピックアップしておいた他の難題を頭の片隅に片付けながらその事柄に関する情報を考える。

「……アレキサンドル台地……アークランドで製造されたパーツでしょうか」

「あ、それそれ。うん、知ってるなら話が早いや」

 そうしてラフィーアが考え至った関連情報に、ガーネットは嬉しそうに顔を緩め――中断していた食事を再開する。

 ――……あんなにいっぱい……いったい何処に入るのでしょうか?

 ラフィーアの対面に置かれたトレイに乗るその膨大な量――軽く見積もっても3倍はありそうな品々に対する感想を思いながら、ラフィーアは“ベネイア”にも直接関わってくるソレを思い出す。

 “ゼニス計画”。

 それは本来、ウェシナが動乱地域を治める事を目的とした発展計画の名前であり、その名前を冠するゼニス・ラプターはその駒の1つ――計画実現の為の実行戦力として開発された機体なのだが、主にゾイドコア関係の技術不足によって予定していた戦闘能力を実現できていないのが実情であり――色々な意味で、この計画は終わっていない。

 そして、アークランドはその計画の根幹を成す大規模な製造・研究施設であり、ラフィーアとも縁の深いあの場所では“次の機体”に関する実験パーツの製造も行われており――ガーネットが掴んだのはその品々の1つなのだろう。

「それでね……ラフィーのツテでうちに回せるようにお願いできないかな〜って思って」

「………………」

 とはいえ、同地で作られているソレ等は正規品には程遠い試作品ばかりの筈なのだが――あの場所は数を作る事を信条としている為、その片鱗をキャッチしたガーネットが先行量産分と誤解しても仕方ないか、と彼女の話を聴きいていたラフィーアはそう結論付ける。

「あんまり無理にとは言わないんだけど……他の部隊と争奪戦になるにしても、1つでも保有していれば優先的に回してもらえると思うんだよ」

「……正規の手段ですと、フゥーリー少佐に頼むのが筋ではないでしょうか?」

 そして、そんな説得を重ねるガーネットに対し、とりあえずラフィーアは思い浮かんだ疑問をぶつけてみた。

 少し、話を脱線させるが――前回の攻略作戦によって中破と判定されたゼニス・ラプターは全部で5機になる。

 ソレ等の損傷機体のパイロット全員が無事であった事からも判るように、ゼニス・ラプターの生存性の高さは今のままでも凄まじい物がある。

 だが、それでも更に高性能な機体の要求を行おうとしているガーネットの真意は、第5世代機という危険要素が発生しうる昨今の戦場にはそれ相応の機体を送り出せるようにしたいと言う事なのだろう、とラフィーアは予測を立てていた。

 しかし――。

「……私はただの技術中尉ですよ? ……そういう申請は、直属の上官であるフゥーリー少佐に上げるのが正統な流れでは?」

 その想いに協力するのも吝(やぶさ)かではないとラフィーアも思っているのだが――物事には、踏まねばならない手順と言うものがある。

「いや、うん。確かにそうなんだけど……あの人だと見返りに何をされるか判らないから……」

 そんなラフィーアの問いに対し、ガーネットは珍しく困ったような表情で視線を泳がせ――間を取るように自分のトレイの上にある飲み物に手を出す。

「……別に、色々な所を撫でられたり、かいぐりされたりするだけですよ?」

 ラフィーア自身、裏道しか歩いていない自分が言える言葉ではないと思っていたが――それでも尊敬する存在には真っ当な道を歩いて欲しい、という願いを含めた言葉であり、最終的には協力するが、釘は打って置きたいというのが彼女の本音である。

「それが嫌なんだってばぁ〜」

 だが、そんなラフィーアの応えに、ガーネットは大げさに机へ突っ伏しながら降参といった様な反応を返してくる。

「……何が減るって訳ではありませんのに」

「いや、減るから。乙女としての何かが……!」

「…………」

 そしてラフィーアの更なる応えに対し、ガバッと半身を起こしながら力説するガーネットに、ラフィーアは驚いたように目を丸め、その反応が楽しかったのかガーネットがニンマリと笑みを零す。

「と、言うよりもラフィー……セラフィルさんもやきもきしていると思うし、あの人とちゃんと話を付けた方がいいんじゃないの?」

 そして次の瞬間にはそんな明るい表情を一転させ、真面目に心配するような声音と共にガーネットは少佐が最も大切にしている女性の事を話題に乗せる。

「……セラフィル大尉は――」

 その質問に、ラフィーアは昔の思い出――そう、2年程前、ラフィーアがストライク・フィアーズを離れる前にあった一幕を思い出す。




 その話の切欠は確か――少佐が珍しく監査役の審査に引っかかり、呼び出しを受けた時の事――。

「……少佐の問題行動……セラフィル大尉はなんとも思われないのですか?」

 自他共に認める少佐の相方――セラフィル・セイグロウ大尉と一緒に行動する機会を得たラフィーアは、彼女にそんな問いを投げ掛けていた。

 それは本当に珍しい事であり――ラフィーアは自分の立ち居振舞いの基本として、“目的”を達成する為に他人の願いや目的を考慮するが、その“目的”を達成した後の事を考え、深く関わる事を避けていたのだが――。

「う〜ん……それって、クーさんが何時もラフィーちゃんに構っている事でしょうか?」

 この時はどんな巡り合わせがあったのか、そんな会話が進んでいた。

「…………はい」

 質問を確認するかのようなセラフィルの問い掛けに対し、ラフィーアは自分自身が投げ掛けた質問を再確認するかのような沈黙の後、肯定を返す。

「そうですね…………ええ、私は別に何も感じていませんよ」

 その見様によっては困惑している様にも見えるラフィーアの所作に対し、セラフィルは何かを考えるような沈黙の後、意外としか言いようの無い答えを返し――。

「もしも、クーさんがラフィーちゃんが欲しいって言ったら、私達の養子にしちゃえば良いだけですもの」

 その上、ラフィーアが思い付きもしない突拍子も無い言葉を重ねてきた。

「…………はい?」

「ラフィーちゃんは時折凄く可愛らしい態度を取るんですのよ? しかも、私にだけ……それがプライベートで始終見られるようになるなんて――最高ですわ」

 その言葉には流石のラフィーアも対応に困ってしまったのだが――そんな彼女の混乱に構わず、セラフィルはノリノリで持論を展開し――その後は彼女のペースのまま、詳細ははぐらかされてしまった。

 それが、その後の彼女達の関係を決定付けた一幕。

 この1件から、ラフィーアはセラフィルに対して“少佐が何をしてもこの人は動じない”という取り敢えずの結論を出しており――同時に、少佐に対してとても大きな恩のあるラフィーアは、彼がする凡その事に関して特に気にする事無く受け入れる対応を続けている。




「――……と、言う事がありまして」

「流石はセラフィルさん……。でもなんだろう、私も知らないラフィーの可愛いところって……」

 ラフィーアがそんな昔話を終えた時、その内容に流石のガーネットも思案顔で黙ってしまったが――。

「まぁ、セラフィルさんの事は良いとして……周りの反応、知ってるでしょ? 戦果を示せば新兵連中も静かになって行くと思うけれど……いろいろ問題があると思うよ?」

 気持ちを改めるような吐息によって、ガーネットは自分の動揺を打ち消すと――先程と根源を同じくする心配を蒸し返してくる。

「……仕方の無い事です」

 少佐との遣り取りに対する批判はラフィーアに対する不満の捌け口のつ1でしかなく、彼等との不仲を本当の意味で解決するには彼等の不安や憤りが消える位に、“自分が使える人材である”という事を納得してもらうしかないと彼女は考えている。

 ――……それに……。

 そもそも、ラフィーアが“目的”を実行出来る様に協力してくれた少佐に対する恩義を、彼女がここに居られる内に返し切れない事は既に明白であり――そんな恩人である少佐の要望を断ると言う選択肢は、ラフィーアの中にはない。

「もぅ……。――とにかく。新型の件……お願いしても大丈夫?」

 その一言とラフィーアの所作から“とりあえずこの場は諦めるしかないか”と割り切ったらしいガーネットは、この会話の最後として本題の確認を取り、

「……はい、可能な限り手を回しておきます」

 ラフィーアもその変え様の無い話題が終わる事を歓迎しつつ、了解の意思を返した。




 そんなガーネットとの一幕から数時間後、

「やはり、西方大陸で間違いないのではないでしょうか?」

「う〜ん……ですが、ウェシナの中にそんな人達が居らっしゃるとは思いたくありませんわ」

 アークランド研究所へ手続き等を行う為、ロムルス基地内の仮設通信管理室へと歩みを進めていたラフィーアの耳に、そんな会話が風に乗って流れてきた。

 ――……相変わらずですね、セラフィル大尉。

 その会話の発信源はラフィーアのほんの少し先――扉が開けっ放しになっている通信管理室からであり、その不用心さに彼女は心の中で溜め息をつき――。

「……失礼します、セラフィル大尉」

 開けっ放しの扉にノックをしつつ、ラフィーアは中に居る2人に声を掛ける。

「ラフィーア中尉?」

「え、ラフィーちゃん?」

 通信管理室内にある端末の前、所狭しと並べられたモニター類と睨めっこをしていた彼女達――席に座って端末を操作していたこげ茶色の髪をした小柄な女性――メルナ・クナーベル准尉と、その脇に立つ銀色の長髪と透き通る様な青い眼をした彼女の上官――セラフィル・セイグロウ大尉が、共に驚きながらラフィーアの方へと振り返る。

「もぅ……やっと会いに来てくれましたね〜」

 そうしてセラフィルは、そのままラフィーアの元へと小走りに走り寄り――その勢いのまま彼女を抱きしめてくる。

「…………」

 ――……相変わらずですね。

 ラフィーアはその懐かしさを伴う息苦しさを感じながら、セラフィルの抱擁をされるがままに受け入れる。

 フィアーズランス艦隊の統括オペレーターを務める上級大尉、セラフィル・セイグロウ。

 その整った顔形に加え、男性からは憧憬の――女性からは羨望の眼差しを受ける事間違い無しな体形も併せ持った彼女は、艦隊旗艦であるレイフィッシュの通信室の主と言って良い人物である。

「あぁ……この抱き心地――久しぶりですわぁ」

 その上、ウェシナ内での優秀なZA能力者でもある彼女は――そのおっとりとした雰囲気からは想像も出来ない事だが、巨体故に生来の未改造部分が多く残るレイフィッシュが機械的操作を受け付けなくなった際、艦全体を制御する役割も負った重要人物でもある。

 ちなみに、ZA能力者とは独立戦争時代から表舞台に出るようになったゾイドに対する絶対的な共感能力を持った人間の事を差し――独立戦争を支配したアルバの実質的な戦力として猛威を振った彼等の軍事利用は、ウェシナでも活発に行われている。

 とはいえ、その実態は積極的に徴兵して厚遇していると言うだけであり――その立場はあくまでも重要な仕官と言う形に留り、ラフィーアが以前に資料で見た暗部――アルバが興る前の様な悲惨な影は無い。

「……どうか……したの、ですか? ……外まで声が漏れていましたが?」

 そんな思考の中、流石に息が苦しくなって来たラフィーアはセラフィルの抱擁から抜け出しつつそんな話題を彼女達に尋ねる。

「クーさんから、『梱包されていたエナジーライガー改がどこに運ばれようとしていたのか調べてくれ』って頼まれてしまいまして……色々調べていたのですわ」

「ネオゼネバス側の“処置”はしっかりと行われていたようでして、ガイロス軍――じゃなくて、所属不明部隊がここを占拠する前に自壊されていたメモリーバンクや通信システムのログ漁りを諦め、接収した港湾施設で鹵獲した所属不明艦船群のメモリーを調べていたのですが……」

「……なにか、問題になるような事が発見されたのですか?」

 メルナの言葉に『……確かに、基地の大型アンテナやその付帯施設は戦闘が始まる前から破壊されていましたね』と、ラフィーアは心の中で相槌を打ちながら、彼女に先を促す。

「その船舶――コンテナに梱包されていたエナジーライガー改を収用する予定だったと思われる輸送船の行き先なのですが……どうやら、行き先はニクスやテュルクじゃ無いみたいでして」

「……? ……では、どちらに?」

 メルナから返された予想外の答えに、ラフィーアは彼女らしからぬ驚きの表情を浮かべながら更に問いを重ねる。

「それが、その……」

「西方大陸ですわ。航路データは消されてしまっておりまして、最終的にどちらに向かいたかったのかは判っていないのですけれど……残っていた付帯データから、ウェシナ領内のどこか……というのは確実ですわ」

 言葉にするのが憚られるような内容だったのか、口ごもってしまったメルナの後を引き継ぐように、セラフィルはそんなあり得ない答えを口にし――。

「…………ウェシナ・トポリの仕業でしょうか?」

 その予想外すぎる事実に、ラフィーアも思わずそんな言葉を滑らせてしまった。

 北エウロペ大陸の南西端を治める強国ウェシナ・トポリ。

 立地条件からくる発言力の高さ故に、ウェシナの宗主国であるエクスリックス・ファルスト・サートラルの三国と折り合いが少々悪い国であり、エナジーライガー改に積まれているタキオンドライブシステムという機構を、政治的なカードとして得る為に裏で手引きをしたのでは? と、ラフィーアは深読みしてしまったが――、

「……いえ、ありえませんね」

「もう……説明する前に結論を出さないでくださいまし」

「南ルートですとファルストやエクスリックスの領海を抜けないといけませんし、北ルートでもフィアーズランス艦隊の本拠があるニザムの領海を通らないといけません。……そんな策動をしようとしても、途中の臨検で接収されるのが落ちですからね」

 流石に突飛過ぎる案だと即座に自分の言葉を否定したラフィーアに対し、セラフィルが詰まらなそうな顔でそんな突っ込みを入れ、待ち構えていたかのようにメルナが立地条件等の補足を入れてくる。

「……その通りです。……少し、動転してしまいました」

 少し考えれば容易に思い付く否定材料を連想できなかった自分を恥じつつ、ラフィーアはあっさりと自分の非を認める。

「私達もさっきまでそんな感じでしたから大丈夫ですわ」

「この策を使えるとしたら、ここから何処の干渉も受けずに一直線に向かえる所だけ……でも、西方大陸方面でそんな策が使えるのは私達の管理しているニザム、そしてサートラルやミューズぐらいなんですよね……」

 しかしセラフィルは自分達も似たような状態だった事を告白し、メルナが自信なさげにそんな言葉を続ける。

 ニザムはフィアーズランス艦隊の本拠地がある為に除外、ミューズは政治的対立とは無縁の立場に居る為に除外、それ故、残るは――。

 ウェシナ・サートラル。

 メルナの口上に上ったこの国は、北エウロペ大陸の中央――かつて、アルバが根拠地を置いたウェシナの始まりの地を治める国の事であり、同連合の最重要機密である古代ゾイド人の遺跡などの重要拠点を多数有する特別地域であるが――。

「それはありませんわよね?」「……ありえないですね」「多分違いますよね」

 その場に居た3人――推察を提示したメルナ自身も含めた全員が、示し合わせたように否定的な意見を上げる。

 かの地はZA能力者であるセラフィルにとっては馴染の深い場所であり、同時にラフィーアとしても“彼女”がそんな独自行動をするとは考えられず――この場に置けるウェシナ民の一般論の代表と言えるメルナも2人と相違のない見解を思っていた。

「とりあえず、私達が判断できるような事でもありませんので……ここで調べられる事を調べたら、クーさんに全部丸投げしちゃおうと思っていますわ」

「…………そうですね」

 今までの会話を纏めるようなセラフィルの言葉にラフィーアは表向き同意しつつ、“彼女”やサートラルと縁深い自身の“後ろ盾”に情報を流し、裏だけは取っておこうと彼女は頭の中でこの情報の送信先のリストアップを始める。

 ちなみに、少々今更だが――セラフィルの言う「クーさん」とはラフィーアの上官であるフゥーリー・クー少佐の事であり、彼女が言うとやけに可愛らしく聞こえてしまうが愛称と言う訳でも無い為、真面目にしていないと色々失礼になる。

「ところでラフィーちゃん、何か御用事が有ったのではありませんか?」

「……はい、セラフィル大尉。……こちらへはレイフィッシュへの暗号ピースの送信をお願いする為に参りました」

 そして、漸く本来の目的に移れる機会を得たラフィーアは、そう言ってプロブ・ウォルレット大佐から預かっている使用許可書を提示する。

「もう、ラフィーちゃんたら……周りに誰もいらっしゃらないのですから、軽い方で呼んでくださいな」

 しかし、セラフィルは許可証を押しのけるように再びラフィーアへ接近、そのまま自分の要望を刷り込むような抱擁を再開する。

「…………メルナ准尉は?」

 そんな中、流石にそう何度も窒息の危機に陥りたくないラフィーアは、抱擁される瞬間に身を捻って気道を確保した状態でセラフィルの親愛の証を受け止め――そんな突っ込みを返す。

「メルナちゃんは大丈夫ですよ。偉い人とかに口外しようものなら……クーさんの所にお使いに行って貰っちゃいますから」

 しかし、流石はレイフィッシュで最も敵に回してはいけない天然系と呼ばれるセラフィルだけあって、ラフィーアの些細な反撃など気にもしないと言った一言で返し――。

「ひっ!? いえ、御邪魔になりそうなので御先に失礼しちゃいます!」

 そのとばっちりを受ける形で最悪の悪夢を振り向けられたメルナは、まるで命が関わっているような悲鳴と共に席を離れ、切羽詰っていても欠かさぬ敬礼と共に通信管理室を飛び出して行った。

「……あら?」

「……相変わらずなのですね、セラさん」

 おっとりとした言動で容赦無く邪魔者を排除するその手腕――そして、正式の軍属になって間もないメルナが退出の際にキチンと敬礼をした事から見て取れる彼女の教育方針の2つに対する賛辞を重ね、ラフィーアはそんな言葉を彼女に送る。

 ちなみに、職場放棄を実行してしまうような教育が正しいのかという疑問の追及はここでは省く事にする。

「どんな内容なのか、聴いてもよろしくて?」

「……ゼニス・ラプターの研究施設……アークランドへの物資供給願いです」

「そうですか……はい、準備できましたわ」

「…………」

 階級が上ではあるものの、特権を使用したラフィーアの行動をセラフィルが見る事は本来許されず――彼女の立場上、部屋を出るなり遮蔽をして視認できなくする等をしなくてはいけないのだが、

 ――……まぁ、見られて困るものもありませんし。

 ラフィーアとセラフィルの間にある信頼関係は強固であり、また本当に重要な事項はウェシナの暗号に通じているセラフィルでも読めない物を使用する予定である事から、ラフィーアは特に気にする事無く入力を開始する。

 1軒目は言葉通り、アークランドへの物資の都合願い。

 “ゼニス計画”の主導的な立場に居る人達の意向に逆らっていないのであれば、計画の実働役であるラフィーアの意向はある程度優遇される為――このメッセージさえ届けば直ぐにでも送ってもらえる筈だ。

 そしてもう1つ。

 本題であるこちらには先にも述べた特殊なコードを使い、今までの成果――と言うよりも成果が無い事の報告とその埋め合わせであるレポート、そして今さっき得られた情報を“彼女”や他の“後ろ盾”に送る。

「…………」

 そうして、今ラフィーアが入力した文面は、厳重なプロテクトが掛けられた上で暗号ピースとしてこの基地に仮設された通信機からレイフィッシュへ飛び、艦の通信設備からそれぞれの場所へと送信される。

「……そういえば……まだ、結婚していなかったのですね」

 その変換作業を見守る中――ラフィーアの口は、セラフィルに対してそんな余計な言葉を発していた。

「あらあら……え〜とですね、ず〜と昔にクーさんと賭けをしたのですよ。赤ちゃんが出来たら直ぐに結婚する、出来なかったらず〜とこのまま、って」

 その言葉――口にしたラフィーア当人ですら言った後に違和感を覚えてしまった発言に対し――セラフィルは少々驚いた表情の後、あらぬ方向に視線を送りながら妙に嬉しそうな表情と声音で、自慢するようにそんな約束がある事をラフィーアに告げ――。

「今もしょっちゅう頑張っているんですけれど――なかなか出来なくて……ふふ」

 そうして完全な惚気で締めくくったセラフィルは、その最後に含み笑いを付け足してからラフィーアの方に視線を戻す。

「ラフィーちゃんも変わっていなくて安心しました。冷めている風な癖に本当はすっごく純真。こんな話をしただけでそんなに顔を赤くしちゃうのでしたら……もっともっとお話ししたら、どうなってしまうのでしょう?」

「……そのままお婆さんになって、後悔しない様にしてくださいね」

 1度ならず、度重ねて言い放ってしまう自分の言動――セラフィルと1対1で対面した際、僅かに気が緩んだだけで出てしまう自分自身の言葉に対し、ラフィーアは内心戸惑っていたのだが――。

「んふっふ〜。そうなったらラフィーちゃんかエリーちゃんの子供を、横取りするぐらいに可愛がる予定ですので……気にしてませんわ〜」

 セラフィルはそんな言葉を気にした風も無く、逆に感極まったかのようにラフィーアの事を再び強く抱き寄せ、かなり荒々しい抱擁を再開する。

 他人に向けて言ってしまえば失礼にあたるような言葉を向けられても、笑顔を返してくれて――その上でこんな風にされている事に対してとても安心している自分が居るのを感じながら、

 ――……やっぱり、苦手です。

 同性のラフィーアから見ても魅惑的な身体を全面に押し立てた、柔らかくも凶悪な抱擁に包まれながら――ラフィーアはそんな感想を思った。



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