機体考察:ヴァルハライザー

 詳細不明の中型航空ゾイド、ヴァルハライザーの考察を開始します。
 ……詳細不明?
 一応、所属している所があるんだから、そこから製造元とかを調べれば色々判るんじゃないの?
 現時点における『古き風の音』にゾイドを開発する能力はありませんので、運用組織から製造元を追えませんでした。
 ……ニクス大陸やテュルク大陸での目撃情報が多いので、ガイロス系のゾイドの様なのですが――。
 開発に係わる資料がどうやっても出てきません。
 ……秘密裏に開発を行った試作ゾイドだとしても、ウェシナがその痕跡を発見できない筈がないのですが……。
 ――う〜ん。
 ……とりあえず、判んない事は放置して判る事だけ進めない?
 …………そうですね。
 では、改めまして――。
 詳細な機体スペックは不明となっておりますが、搭載している兵装と推進制御機構から、従来型とは一線を画する新機軸の空対空戦闘を主軸とした航空ゾイドと推察されます。
 凄いのは外見からでも判るような気がするけど……新機軸って?
 では、その説明に入る前に昨今の航空ゾイドの実情を説明します。
 ZAC2120年代、陸戦ゾイドの火力が異常に向上した昨今、航空ゾイドの肩身は狭くなる一方となっているのが実情です。
 惑星Ziだとレーダーがあまり上手く機能しない事もあって、「中・近距離戦を強要される」→「火力と防御・回避能力の殴り合いになる」→「装甲も薄く、機動に制限のある航空ゾイドは不利」って言う流れなんだよね?
 はい。
 レーザー・ビーム兵器や実弾対空兵器が有効打とならない高高度からの爆撃なら航空ゾイドも比較的安全に攻撃を実施する事が可能となりますが、ソレは戦闘ではなく戦術であり、陸戦ゾイド側の被害も状況次第といった物となります。
 そのため、ウェシナでは以後の航空ゾイドには更なる機動運動性能の向上は勿論の事、せめて地上から照射される大出力レーザー兵器に1秒位は耐えられるだけの対エネルギー装甲が必要であると考えていたのですが……。
 考察対象はその先――重厚な対エネルギー装甲で覆われた航空ゾイドを墜とす事も想定した機体となっております。
 え〜と……まず、考察対象じゃない方。
 航空ゾイドの重装甲化だけど……そんな事できるの?
 まだ実現していませんが、共和国のエルワチウム系の装甲材を転用したE転換装甲が完成すれば理論上は可能と聞いています。
 ふぇー、凄いんだー。
 次は、「その先」――考察対象の方だけど……。
 そういう普通の方法では墜とせないゾイドを墜とす為に、この機体が生まれたのかと。
 ――順を追って説明しますね。
 まず、墜とさないといけない対象……対E装甲装備の航空ゾイドの話をしますが――。
 その新素材を導入しても離陸重量の関係上、大型対空砲やミサイル等の実弾兵器を防げるだけの厚みや強度が取れませんので、状況的には陸戦ゾイドの大火力化の中でも空戦ゾイドがまともに飛べる様になっただけとなります。
 しかし、従来機同士の空対空戦闘に置いてはこの限りではなく、現状でも大気成分の関係で悲惨な命中率のミサイルが機体の機動・運動性能の向上で無力化されてしまうと……空爆の阻止などが出来なくなってしまいます。
 まぁ、今の航空ゾイドが付けている補助兵装は20mm機銃か小口径のエネルギー兵器……。
 ――そんなの出て来られたら手詰まりになるわね。
 はい。
 それがプリゼアの質問の答えになります。
 そして、迎撃出来ないという事は国土防衛に関する絶対的な脅威であり――。
 ソレを墜とせる事だけに特化させても良いから対応出来る機体が必要となってきます。
 既存の例で判り易く言うと……場所が陸上だけど、セイスモサウルスに対抗した凱龍輝みたいな奴?
 有り体に言えば、そうなりますね。 
 そうして 考察対象の開発元が選らんだ方式が、大口径ビーム砲『レギンレイヴ』です。
 外気取り入れ口や推進器の噴射口、そして関節など装甲化出来ない部位は確実にありますので、昔ながらの背後を取り合う空の格闘戦で側面――出来れば背後に「当て続ければ」装甲を抜けなくても必ず墜ちます。
 ……20mm機銃でも上手くすれば同じ方法で落せるかもしれませんが、軌道がある程度決まっているとは言え変則的に動き続ける航空ゾイドに連続的に当てられるかと言うと――疑問が残ります。
 その点連続照射できるエネルギー兵器なら、撃ち続けてればその内当たる――力押しねぇ……。
 ――まぁ、嫌いじゃないけど。
 ……ちなみに、航空ゾイドにあるまじきクローアームも、レドラーの切断翼のような命知らず攻撃ではありますが――当たれば効果絶大ですです。
 なんつったって格闘戦はゾイドの最後にして最も有効な攻撃手段だからねー。
 そして、そんなん振り回せるぐらいだから翼周りの強度とんでもない、と。
 ――もしかしたら、考察対象も凄い装甲を使っているのかも知れないわね。
 でも、そんな凄いのを相手に想定している考察対象が、装甲化されてない今の航空ゾイドとぶつかったら――。
 それはもう……蚊蜻蛉の如く、バタバタと墜とされるでしょうね。
 うわぁ……。
 これからどんどん厳しくなっていくだろうけれど、ZAC2120年代なら軽装甲の陸戦ゾイドも殺れるでしょうからね。
 そう考えられます
 ――最後の補足になりますが、磁気嵐纏うという事は、金属粒子を多く含む惑星Ziの大気の壁を纏うという事でもありますので、考察対象は装甲とは無関係の高い防御性能も有していると考えられます。
 フルンのスプリッドアーマーみたいなものね。
 まぁ、アレと同じで航空中に使うと失速の危険性が凄いからあんまり多用は出来なさそうだけど。
 ゾイドは航空力学に頼るチキュウ? の航空機と違って失速耐性が異様に高いからそう簡単には墜落しないけれど……危ないのは危ないもんねー。
 ……というか、この考察対象――本当に現代のゾイド?
 ここまで先進的だと、なんか身に覚えがありそうな種別だと疑いたくなるんだけど――って、フィーエル? 遅かったわね。
 ゼフィリア、市政庁からの書類確認を当機に押し付けたのは貴女だと――。
 ――――。
 ……ん? フィーエル? どうしたの?
 本機のライブラリーに考察対象と類似機体の情報有。
 ――仮称YFX−X−N12……敵性陣営の新鋭未確認機体の亜種と認識。
 ラフィーア、当機は考察対象の詳細な所在情報を要求します。
 ちょ、ま……フィーエル、色々当たって――って言うか重いです……。
 フィーエル待った待った!
 貴女のライブラリーに居る機体が現存しているのは凄いけど、それは過去の敵でしょ?
 対象の今の立ち居地も判らずにいきなり戦闘に突入するのはめんどくさいから駄目。
 敵性陣営のN10以降のゾイドは当機と同じ分類にあるシステムを内包していると推察されています。
 存在するだけでも本機に危害が及ぶ危険性がある為、先制攻撃を推奨します。
 そ、れ、で、も!
 古代種と戦争するのは楽しいけれど、喧嘩を吹っ掛けるのは私の敵になってから!
 うわぁ……どっちにしても物騒だ……。
 (……しかし、古代種だったのですね――道理で正体が判らない訳です)



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